「恐怖の映画」(横溝正史)

ミステリーというよりはホラーに近い作品です

「恐怖の映画」(横溝正史)
(「殺人暦」)角川文庫

撮影所の倉庫の中で
不倫の清算をしていた
俳優・菅井と監督の妻・蘭子。
そこに監督が現れたため、
菅井はとっさに彼女を
倉庫の模型の
「鋼鉄の処女」の中に隠し、
その場を去る。
数時間後、彼女は
両目の潰れた絞殺体で
発見される…。

粗筋の3人以外に、登場人物は
傴の道具係・木庭だけですので、
犯人捜しのようなものではありません。
ミステリーというよりは
ホラーに近い作品です。
横溝がこのような作品を
書いていたことに驚いています。

本作品の読みどころ①
尋常ならざる恐怖と衝撃

ある意味、
江戸川乱歩の作品といっても
いいくらい悪趣味な作品です。
恐怖と衝撃は尋常ではありません。
そもそも「鋼鉄の処女」とは何か?
これは中世の拷問・処刑道具であり、
聖母マリアをかたどった
女性の形の人形なのです。
中は空洞になっていて、
扉を閉めると中に設置された
何十本もの釘が中の人間を
刺し貫くというものなのです。
模型ということになっていますが
実は…という、読めてしまう
展開であるにもかかわらず、
恐怖は押し寄せてきます。

本作品の読みどころ②
後半部の一層の恐怖体験

後半部は菅井に恐怖の瞬間が訪れます。
蘭子の死の原因を聞かされ、
同じようにして
私刑にされるというものです。
読み手はあたかも自分が殺されそうな
感覚に襲われます。

本作品の読みどころ③
高くついた不倫の代償

この菅井は実は悪玉であり、
りん子を踏み台にして
スターの座を得ていたのです。
さらにこの貧乏撮影所に見切りをつけ、
大手プロダクションに移籍するために
蘭子との関係を
清算しようとしていたのです。
殺されても当然の
キャラクターを生み出し、
本作品を単なる恐怖小説に
していないあたりがさすがです。
それにしても何と高くついた
不倫の代償でしょうか。

本作品の読みどころ④
傴の道具係・木庭の妖しい存在

この男が至るところで
妖しい雰囲気を醸し出しています。
もちろん終末では
重要な役割を担います。
本作品がホラーたり得るのは、
ひとえにこの奇妙な風貌の
男の存在が大きいのです。

作品の発表は昭和6年。
大正から昭和初期にかけて
実に幅広い味わいの作品を
生み出していた時期の最後の方です。
これ以後は日本の時局が厳しくなり、
こうした猟奇的な作品は
次第に少なくなっていくのです。

(2018.10.28)

Matthias WeweringによるPixabayからの画像

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